税務情報

ミャンマーの会計・税務情報

(1)ミャンマーの会計・税務・監査 年間スケジュール

4月 5月 6月
連邦税法改正
商業税事業者登録
前年決算作業
第4四半期商業税申告

 

前年の法人所得税・
商業税・個人所得税申告期限
7月 8月 9月
第1四半期商業税申告
第1四半期法人所得税納付
株主総会
税務アセスメント(~3月)

 

 

10月 11月 12月
第2四半期商業税申告

 

 

1月 2月 3月
第3四半期商業税申告

 

商業税・所得税前納期限(最終営業日)

 

月次
前月分の商業税の納付(10日まで)
前月分の個人所得税の納付(7日まで)
社会保険料の納付(翌月15日まで)

 

四半期
商業税申告(翌月末)

 

随時
源泉所得税(Withholding Tax)の申告納付 
(支払から7日以内)

 

(2)経理スタッフの雇用

ミャンマー、特にヤンゴンでは簿記会計を教えるアカウンティングスクールが多くあります。また経済大学の卒業生は簿記会計を大学で勉強しています。経理スタッフを雇用する場合、

A.大学や専門学校で経理を学んだスタッフを雇用する、

B.国内外で経理の経験があるスタッフを雇用する、

などが考えられます。

人材紹介会社へ経理スタッフを雇用したいと相談すると、要望にあった候補者の紹介も受けることができます。

いよいよ採用面接となったときには、本人の経験や能力を十分に知ることが大切です。日本の日商簿記に該当するLCCIというイギリスの資格や、前職での担当業務を尋ねること、また実際に簿記の試験を課してみるなどの方法が考えられます。

 

(3)日常の現金管理~キャッシュブック(現金出納帳)の作成~

 

現金経済のミャンマー

日系の銀行もミャンマーへ進出し金融インフラが徐々に整ってきている環境ですが、まだまだ現金決済が多い事情もあります。たとえば給与の支払いなども現金決済のほうが多い状況です。不正やミスを防ぐ意味では現金の取り扱いは少ないほうが良いのですが、現地の事情に鑑みてそうもいかないというところです。

そこできちんと現金の出入りと残高を管理することが大切です。

 

キャッシュブック(現金出納帳)

ミャンマーでは現地通貨のミャンマーチャット(Myanmar Kyats、MMK、Ksなどと表示されます)とUSドルの使用も一般的です。そこで、ミャンマーチャットのキャッシュブックとUSドルのキャッシュブックを作成します。USドル建ての取引や残高がない場合には作成する必要はありません。

現金出納帳には現金の入出金に関して、

1.日付

2.金額

3.内容

を最低限記載します。会社によっては勘定科目や証憑紐づけ番号、プロジェクトに関する支出などを分けて記録するための管理番号を振ったりと工夫しているようです。

現金の出入りが多いため、都度記帳し残高が必ず一致するようにしましょう。またミャンマーでは50チャット札が通常の取引で使われる一番小さな紙幣ですが、値段は50チャット未満が表示されるものも多くあり、その場合には端数は切り捨てまたは切り上げで決済することが一般的です。1230チャットの買い物のときには、1250チャットを請求されるというように近い数字で支払うのです。キャッシュブックには実際の出入りの金額を記載し、手許の小口現金の残高とキャッシュブックに記載された残高が一致するようにしましょう。

 

証憑整理

各入出金にはその証拠となる資料(エビデンス資料)があります。入金であれば会社が発行したレシートの写しなど、出金であれば経費のレシートの原本などが該当します。キャッシュブックにエビデンス資料の番号を記載し、エビデンス資料は番号順にファイリングしましょう。

タクシー代をはじめとしてレシートの出ない経費もあります。その場合には出金伝票「Debit Voucher」を記載し担当者と現金出納担当者のサインをします。出金伝票(Debit Voucher)入金伝票(Credit Voucher)は一般的な文房具ショップに販売されています。

 

(4)日常の売掛管理

見積もりから代金受領まで

顧客から売上代金を受け取るまでには、一連の流れがあります。見積もり→注文→納品→請求→代金受領となります。請求を行ってから代金を受領するまでのあいだ、売掛金が発生しますが、売上代金の回収もれがないように入金管理はきちんと行いましょう。

 

売掛金元帳と入金の消込

顧客へ請求を行ったら、売掛金元帳へ記帳します。また顧客が代金を支払ったら、入金がどの売掛金なのか照合し消込を行います。顧客別に未払の売掛金がいくら残っているのかきちんと管理しましょう。

 

ミャンマーでは

すべてのケースにはてはまるわけではありませんが、ミャンマーは現金取引が非常に多く、取引が決まったらその場で山盛りの現金をもってくるということが今でも一般的です。車や不動産の取引など多額の決済も例外ではなく、サンタクロースのような大きな袋にミャンマーチャット現金をつめて持ち歩いている姿はごく一般的です。(治安が良いことの証拠ですね)

またミャンマー企業は一般的に支払に対して非常に怠惰であり、請求を行ってもなかなか決済してくれないということが多いです。現金が入るまで売上認識ができないといっても過言ではありません。

このような状況が影響しているのか、「現金売上」しか経験のない経理スタッフが多く、基礎的な売掛管理ができないことがあります。期待して雇用した経理担当者がほんの数件の売掛・入金管理ができずに売上の二重計上を行うなどして、日本人マネジャーがため息をつく・・といった光景が良く見られます。現金経済のためやむを得ないため、売掛金元帳を作成するなど仕組みを作ってから、運用を経理担当者へ任せる等工夫をしておかないとあとから「顧客の入金管理がまったくできていなかった!」ということになってしまいます。

一方でミャンマー企業からの請求は一般的に大変タイトな日程で、現金決済は1週間以内に期限を設けている請求が多いです。皮肉ですが、おだやかな中にしたたかさを持つミャンマー人たちに学ぶ点もありそうです。

 

(5)スタッフの給与計算・社会保険、所得税の源泉徴収

ミャンマーで会社や支店を運営し始めたら、まずローカルスタッフの雇用を行うことから始める企業が多いと思います。はじめてのスタッフ採用に際しては就業規則を策定し、各スタッフと雇用契約締結を行うことと思います。

そして、会社と従業員の間で合意した内容に基づき、給与計算を行います。

 

最低賃金

2018年4月に最低賃金が改正され、一日(8時間)4800チャットとされました。

 

時間外手当

平均賃金の2倍を支払うことされています。残業の多い業種では雇用主の負担が大変大きく注意が必要です。

 

給与相場

発展著しいミャンマーで、特に最大都市ヤンゴンにおいては給与相場が非常に高まっていいます。また企業の従業員として働く機会のある人々が少なかった経緯から、「新卒なら大体月次給与20万円くらい」というような相場観もありません。また新卒マーケットというのは少なく一般的にミャンマーの人たちは大学を卒業するとすぐには就職せずに職業訓練校などで好きな分野を学んでから就職活動にチャレンジすることが一般的です。

 

雇用契約

Ministry of Labour(労働省)からミャンマー語の雇用契約書のひな型が提供されています。

 

社会保障費

ミャンマーでは従業員を5名以上雇用している場合は強制、それ未満の場合には任意で社会保障に加入する必要があります。雇用主の負担が月次固定給与の3%、従業員負担が月次固定給与の2%、合計で月次固定給与の5%を毎月納付します。ただし月次固定給与には上限金額があり、上限金額は300000チャットとされています。

毎月15日を期限として月次納付の必要があります。期限に遅れるとペナルティが課せられます。

 

給与所得税

毎年4月に改訂される連邦税法にルールが定められています。2018年4月~2019年3月の連邦税法では、下記のようになっています。

1 給与所得税の
対象となる給与
給与、各種手当(時間外手当、通勤交通費、日当、住居手当、役職手当など)、賞与などすべて
2 所得税の対象者 年間の給与総所得が480万チャットを超える者
(合計が480万チャット以下の場合には所得税はありません)
3 基礎控除 給与所得合計の20%または1000万チャットの少ない方
4 家族控除

 

配偶者控除 100万チャット、所得税納税者ではないことが要件
両親控除 一人につき100万チャット
納税者の両親、配偶者の両親、最大4名の控除が可能
同居していること、所得税納税者ではないことが要件
子女控除 一人につき50万チャット
18歳未満かフルタイムの学生であることが要件
5 保険料控除 本人または配偶者のために支払った保険料は控除が可能
6 課税所得 1を3~5 の控除項目の減算を行い、課税所得を求める
7 税率 0%から25%までの累進課税
0% 1~2,000,000
5% 2.000,001~5,000,000
10% 5,000,001~10,000,000
15% 10,000,001~20,000,000
20% 20,000,0001~30,000,000
25% 30,000,001~

 

 

支払日から7日以内を期限として月次申告納付の必要があります。申告は会社の所在地を管轄する税務署でおこない、納付は税務署指定の国営銀行で行います。

 

(6)商業税の月次・四半期・年次処理

商業税は日本の消費税や各国の付加価値税に類似の税金です。連邦税法により毎年ルールが少しずつ変わりますので注意してください。基本的にはミャンマー国内での会社の売上に原則5%の税金が課されます。

 

納税者登録と事業所への登録証の掲示・申告納付

事業開始報告の書式を税務署へ提出し、納税者登録をします。登録証はオフィスに掲示し、毎月の商業税の納付と四半期、年度末の申告義務が課されます。納税額が不足している、期限に遅れる場合にはペナルティが課されます。

 

免税点

2018年4月連邦税法により年間の売上高が5000万チャット未満の場合には免税されます。(年間の売上高は税込みか税抜きか明確なルールはありませんが、税込みと解することが多いようです。)

 

事業内容による実務

レストラン・ホテル業については顧客へ発行するレシートに商業税納税を証明するスティッカーを貼ることとされています。実はこのルールは他業種にも広げられましたが、浸透せず実務的にはレストラン・ホテルのみが対応しているルールとなっています。

 

仕入控除

売上から仕入を控除し商業税額を求めると考えるのが一般的ですが、ミャンマーでは仕入控除という考え方があまり浸透していません。売上に直接かかわる仕入については、仕入先からフォーム31という書式の交付を受けることにより控除が可能です。

逆に売上があり商業税を納付した場合には、顧客へフォーム31を交付することにより顧客が商業税の仕入控除を行うことが可能になります。

 

(7)法人税は申告納税方式と賦課課税方式の中間

ミャンマーの税制では、「所得税法」の中で法人も個人も規律されているため、「法人のビジネス所得税」ということになります。法人の所得は益金から損金を差し引き求めますが、益金とは何か、損金とは何か、ルールがあいまいな点が多いです。

会社は事業の益金と損金を計算し、年間の所得に基づき法人の所得税を申告納付します。会社の決算期は3月決算のみです。納付は四半期に一度行う必要があり、年次確定申告は6月末が期限となります。年次確定申告の際には、年次申告書を所轄の税務署に提出します。6月の後半は税務署が大変込み合い、税務官一人を大勢の納税者が取り囲んでいる光景が毎年見られます。

 

税務官によるアセスメント

会社が納税者登録を行うと、当該会社に税務官が担当者として任命されます。この担当官は毎年変わるケースが多いようです。本来納税者登録は商業税の業務に付随して行われますが、実務的には法人所得税についてもこの登録により担当官が任命されるようです。

申告納税ルールに基づき、毎年6月末までに申告を行いますが、一部の高額納税者を除き、その後税務官によるアセスメント(査定)を経て最終的な税額が確定します。たとえば2018年4月から2019年3月の会計期間については、翌年度である2019年4月から2020年3月の1年間がアセスメント期間とされています。

税務官の人数は納税者の数に比してまったく足らない状況で、アセスメント手続きを依頼してもなかなか行ってくれないという現状があります。

 

ヤンゴン・パンソーダン通りにある法人を管轄する税務署

 

(8)源泉徴収税 Withholding taxの対応

日本では税理士への報酬の支払いなど外部の「個人」に報酬を支払う場合には都度所得税を源泉徴収するルールがあります。ミャンマーではこれに似た制度で源泉徴収税(Withholding Tax・WHTなどと記載されます)という制度があります。

対象となるのは、ロイヤルティの支払・利息の支払い・物品の対価の支払い・サービスの対価の支払いの4項目があり、相手方は個人法人を問いません。

 

納付方法

支払を行った日から7日以内に税務署で納付書を発行してもらい、ミャンマー経済銀行で納付を行います。また源泉徴収された税額の証拠を相手方へ交付します。日本の支払調書は年間で作成されますが、ミャンマーでは税額の証拠は都度交付するため非常に手間がかかるところが悩みの種です。

 

(9)印紙税 過怠とならないよう注意を

ミャンマーの印紙税ルールは大変古く、1894年印紙税法に基づくルールとなっています。

その後数回改正が加えられていますが、基本的には1894年に制定されているため実情にあわないルールも含まれています。

契約書や政府へ提出する文書など、印紙税法で規定する各課税文書を作成・執行する場合には印紙税が課せられます。

 

納税方法

納税は当該課税文書の執行前に納税することとなっておりますが、、課税文書の執行後1か月以内であれば救済措置があります。前者の場合には印紙税を担当する税務署で納税します。後者の場合には地域の税務署で納税しますが、期限後の納付であることから印紙の交付は受けられず、税務官の署名となります。印紙税の管轄税務署はヤンゴンの場合、法人税務を管轄する税務署ではなく地域の税務署となります。

 

ペナルティにご注意

本来は文書の執行前または執行の時に納税をすることとされていますが、上記のとおり地域の税務署で、課税文書の執行から1か月以内であれば納税を受け付けてくれます。ただし、その1か月を過ぎた場合には仮に自己申告で過怠を申し出てもペナルティとして納付すべき金額の10倍が課されます。

 

各種税金の納付場所となるミャンマー経済銀行




Copyright(C) MVC会計事務所. All Rights Reserved.